兵庫県弁護士9条の会(→HPはこちら)のメンバー弁護士の一人である土居由佳さんが,ある高校で人権学習講座で講師をなさったときのエピソードを書いておられました。
 土居由佳弁護士は,全国の残留孤児訴訟の中で,唯一勝訴判決を勝ち取った兵庫弁護団の主力メンバーのお一人です(~幽霊メンバーの私とは全然違う。)。

 とても考えさせられる内容だったので,引用させていただくことにしました(なお,一部の抜粋です。)
「人権学習講座」講師報告

  ある私立男子高校から、1・2年生に対して人権学習講義として中国「残留孤児」国家賠償請求訴訟についての話をしてもらいたい、という依頼を受けました。
(中略)
 講義の準備に当たって、1時間という限られた時間の中、何を話そうかといろいろ考えたのですが、
現在の高校生は、1980年代後半から90年代に大きく報道された「残留孤児」の訪日調査についても知らない人たちであり、社会の授業も近現代まで辿り着かずに年度が終了するため、中国「残留孤児」についての知識がほとんどないという現状にあります。

 そこで
◇まずは「残留孤児」が生まれた経緯について説明した上、
◇日中国交正常化まではそもそも帰国施策の対象外におかれていたこと、
◇国交正常化後も留守家族の身元保証を要求するなどの国の理不尽な政策により大幅に帰国が遅れたこと、
◇そして、日本へ永住帰国した後も不十分な自立支援により、今なお「日本人として人間らしく生きる権利」が侵害され続けていること、
を説明しました。

 この講演で、生徒に伝えたかったことは、まずは「残留孤児」が生まれた経緯そのものが軍隊とは何かを物語っているということです。
 すなわち、国策として国民を大量に満州に移民させたにもかかわらず、ソ連が攻めてくることが分かっていながら、開拓団を捨石にして、軍人とその関係者のみが先に逃げていってしまったという現実を説明し、「軍隊は国民を守らない」ことを訴えました。

 さらに、帰国施策、自立支援施策において、声を上げて国の責任を指摘できない弱い者に対しては、世論による要求が湧き上がらない限り、その人権を保障するために何らの対策もとろうとしない日本政府の現実も訴えました。永住帰国までに残留孤児が経験した苦しみについて話をしたときには、生徒からも「かわいそう」というつぶやきが洩れました

 最後に、この講義で、私は、憲法と法律との違い、そして、憲法9条の大切さを是非訴えておきたいと考えていましたので、
◆「憲法とは,国の根本的な法で,国民全ての利益の体系であり,国民一人一人の権利を守るために,権力,役人を拘束するルールである点で、他の法律とは異なっている」
ということを説明するとともに、
◆「全ての戦争は自衛という大義名分に粉飾されて始まるものであり、憲法9条を改正しようという現在の動きは、再び『残留孤児』を生み出すことになるというほかないものである」

という話をしました。

 そして最後に、
「自分の経験できることは限られているが、人には想像力がある。想像力を働かせて、相手の置かれた状況を推察して、思いやりを持って生きていってもらいたい」
と締めくくって終わりました。

 そうしたところ、一人の生徒が、
「北朝鮮など,共産主義国で訳の分からない、理解不能な国が日本に侵略してきたら困るから,自衛のためには憲法は改正すべきだ」
と発言しました。

すると、会場中から拍手が沸き起こりました。


 この拍手からすると、これが高校生の大部分の認識なのかもしれません。
 これは、北朝鮮の「異常さ」を繰り返し報道するマスコミによる影響が大きいと思われます。

 教師は、質問ではなかったということで、私に発言を求めようかどうしようかと迷っていましたが、これは是非回答をしておかねばと思い、わずかな時間でしたが、
◆「現在の状況からして、北朝鮮が実際に攻めてくるなどありえないことは政府も認めている」
◆「今の憲法9条改正の動きは、世界中でアメリカとともに集団的自衛権を行使できるようにするためのものであり、極東アジアに位置する北朝鮮は関係ないこと」

を説明しました。

  そうしたところ、会場がシンと静まり返りました。少しは理解してくれたと考えたいです。

  講義の後、校長先生が
 「政府は責任を認めようとしない。『残留孤児』事件もそうだし、沖縄の集団自決の否定もそうだ。」
と日本政府の姿勢を批判しながら生徒に語りかけたため、一層、この講義が充実したものになったと思います。

 印象的だったのが、講義後、この講義担当の教師が、「憲法と法律の違いを今まで知らなかった。今日、教えてもらってとてもよかった」という感想を話してくれたことです。教師ですら、憲法とは何かということを知らないことに驚くとともに、このような問題に関心のない人たち、とりわけ若い人たちに対してこそ、講演活動を行っていく必要があると改めて痛感した講演でした。

 少年たちと私たち大人の違いは,
   ◆経験が豊富か否か(=大人の方が知識・経験が豊富)
   ◆感受性が強いか否か(=子どもの方が感受性が強い)
だろうと思います。

経験が豊富だと,物事がどんな風に展開するか,想像・予想することができるようになります。
子どもはそこが不足している。
他方で,感受性が強いので,小林よりのりの戦争論のような単純な主張もスンナリ受け入れられます。

だから,
  「悪いヤツが攻めてきたら,やっつけたらいいじゃん!」
と,なりやすいのでしょう。

 実際に,現実問題として,
   ▼攻撃に対して反撃した後どんな風に泥沼化するか,
   ▼終戦処理の難しさ,
   ▼勝とうが負けようが戦後の諸々のダメージ回復に費やす労力,
   ▼戦争にかかる費用の莫大さ,
   ▼指揮官トップが無能の場合のおそろしさ,

などは経験が浅いので,考えが及ばないのでしょう。

 防衛政策がどれほど難しい問題なのかを知らずに,無垢な気持ちでマンガ的な改憲論を述べる若者が数多く存在していることを知り(分かった上で言っている大人は別ですが…),
 あらためて憲法教育の重要性を考えさせられた次第です。

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