[緊急提言]台風12号被災者の救助等について

田中健一,津久井進,山崎栄一
(※アイウエオ順)
連絡先
兵庫県西宮市甲風園1丁目8番1号
ゆとり生活館AMIS 5階 〒662-0832
(弁護士法人芦屋西宮市民法律事務所)


私たちは,関西学院大学災害復興研究所において,災害時の法制度について共に研究をして参りました。すなわち,田中は兵庫県における災害救助と生活再建支援の実務に携わった経験,津久井(弁護士)は災害復興に関する法律実務に携わった経験,山崎(大分大学准教授)は災害と福祉・情報の研究に携わった経験に基づき,かねてより災害救助・災害復興について現実的な政策を検討しております。
今般の台風12号では甚大な人的・物的な被害が発生しました。数多くの犠牲者の方々に哀悼の意を表するとともに,被災者及び被災地の皆様に心よりお見舞い申し上げます。
私たちは,この平成最大の風雨被害に際して,極度の不安と絶望に瀕した被災者を救済することが最優先であるとの認識の下,一刻も早く万全の救助・支援が実施され,かつ,あらゆる災害対応が講じられるべきと考えております。かかる観点から,以下のとおり緊急提言をとりまとめましたので,現下の対応にご参考にしていただければ幸いです。

1 災害救助法の徹底活用を(国,県,市町村宛)
 災害救助法は,被災者を救助する方法を広く定め,地方自治体に広範な権限を与え,被災地の現場に即して弾力的に運用することが可能な仕組みとなっています。したがって,本来,被災者は同法によって手厚く保護されることとされています。同法が,有効に活用されれば,多くの生命が救われ,被災者の不安も相当改善されるはずです。
 ところが,これまでの大災害では,被災地の自治体が,厚生労働省が定めた災害救助の一般基準の範囲内で救助し,それを超える救助に躊躇している傾向がありました。しかし,そもそも,厚生労働省の定めた基準は,国庫財政負担の一般基準に過ぎません。被災者を救助する必要があれば,救助は幅広くなし得るのであって,一般基準の枠にとらわれて硬直的な対応がなされるとすれば,むしろ問題です。特別基準(災害救助法施行令9条2項)を活用するとともに,被害の実情に照らして必要な救助を検討し,柔軟な発想をもって救助方法を創意工夫し,被災者の救助にあたられるべきです。
 人命と被災者の生存の確保を最優先し,災害救助法を徹底活用して下さい。

2 食品,水,医療,救出の迅速な供給を(国,県,市町村宛)
 台風12号の被災地の一部は,交通が寸断された孤立集落があり,また,広範囲にわたって水道管の断絶が発生しています。水道の応急復旧に時間を要する地域もあります。行方不明者も50人以上の多数に及んでおり,家族らの不安は極限を超えています。避難所での憔悴の中での生活も数日に及び,被災者の心身の疲労は相当蓄積しています。
 被災者の生存を確保するためには,十分な食料,水,医療が必要であり,徹底した救出活動を行う必要があることは自明です。ところが,一部の地域では,被災者らが自ら船出しして食料品を調達に出向いたということです。これは被災地の逼迫した実情と,食品供与等の災害救助が追い付いていない事実を示すものです。
 これまでの大災害でも,食品供与等については弾力的に特別基準が設けられてきました。救助のための輸送についても,被害の実情に応じて柔軟に対応されてきました。食品,水,医療等の生存に直結する救助については,全国各地から輸送機等の貸与等の応援を得て,陸路だけでなく,海水路,空路などをフルに使い,一刻も早く届けられるよう措置を講じるべきです。また,食品については現代生活の水準を考慮して,おにぎりと菓子パンのみといった事態が生じないよう注意するべきです。
 医療については心身のケアが行き届くよう物心両面の対応を行うべきです。被災者の救出については,自衛隊や消防隊に任せるだけでなく,また,3日間という一般基準にとらわれることなく,見守る家族の心情に配慮した,きめ細やかな対応を行うべきです。

3 泥出し作業の専門職業委託を(国,県,市町村宛)
 台風12号の被災地では,浸水に伴って大量の泥が流入したため,泥の掻き出し等が必要です。既に被災地ではボランティアによる泥出し作業が始まり,ボランティア募集も行われていますが,一般家屋であればともかく,災害直後の危険な状況にある場所等で一般ボランティアに従事してもらうわけにはいきませんし,また,泥出しの範囲は相当広範囲にわたるためボランティアだけでは物理的にも限界があります。人でだけではなく,専用の道具や機器も必要です。
 災害救助法23条1項10号,同施行令8条2号では,救助の一つとして,災害によって運ばれた土石等の障害物の除去がメニューの一つに挙げられています。泥出し作業についても,この救助を適用することによって,作業に慣れた土木作業員等の専門的・職業的人材の応援を得て対応することは可能です。過去の水害でも活用例があります。
 そこで,今回の被災地でも,ボランティアを募集して市民の善意に頼るだけではなく,災害救助としての泥出しを積極的に行い,業務を専門的・職業的作業員等に委託し,まだ,泥出しに必要な道具の調達を早急に行うべきです。

4 仮の住宅の早期確保を(国,県,市町村宛)
 避難所での生活は,できる限り早期に終了させて一応の安心が確保できる住宅を整備するべきです。災害救助法では,応急仮設住宅が例示されており,これを早期に建設すべきことは言うまでもありません。応急仮設住宅の建築に当たっては,私有地賃借による用地確保,コミュニティ重視,生活に配慮した建物の仕様等,阪神淡路大震災から東日本大震災までの教訓が蓄積されていますので,これらを活かした対応が望まれます。
 応急仮設住宅だけでなく,公営住宅の転用,民間住宅の借り上げという方法も活用されるべきです。応急仮設住宅を建設するより,コスト面でもはるかに安価で,財政負担の面からも良策です。
 また,民間住宅については借り上げだけでなく,被災者が一般賃貸物件に入居して避難する場合に,災害救助法23条2項を適用して家賃補助する措置も講じられるべきです。
 被災者の生活再建にとって,仮の住宅の確保は極めて重要です。早急に弾力的な対応を行うべきです。

5 救助に県の積極的な関与を(県宛)
 災害救助の責任は都道府県にあります。必要があるときは市区町村に事務を委託することとされており(災害救助法30条),台風12号被害でも,市町村が最前線で災害救助事務を行っているように見受けます。
 しかし,被害の大きさを考慮すると,本則どおり都道府県が直接対応すべき状況です。兵庫県においては,阪神・淡路大震災やその後の台風被害等でも,兵庫県が災害救助の直接対応をしており,それによって判断と実行が円滑に進みました。近畿圏では,府県で関西広域連合が組織され,東日本大震災でも県境を越えた支援活動が行われていましたが,他の地域の自治体の応援部隊との連携を図る上でも,また,被災した隣接県相互の連携を図る上でも,県の積極的関与を全面に押し出すべきです。

6 激甚災害の早期指定を(国宛)
 災害救助とは別に,災害復旧も早急に行われるべきです。この点,災害救助費用と,災害復旧費用は別個のものですが,将来予想される災害復旧費の負担が大きくなるのを懸念して,災害救助までが躊躇されるケースが散見されます。もとより,それは大きな誤解です。しかし,被災地の地方自治体が大災害によって,深刻な財政負担に悩まされることは紛れもない現実です。被災した地方自治体が財政面で不安を抱えることなく,被災者の救助・支援,被災地の復旧に注力できるようにすることが重要です。
 激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律の適用をするためには,激甚災害の指定を受ける必要がありますが,適用の可否を決めるために被害額や復旧費の査定を行うこととされています。この査定に時間を要するのが通例です。しかし,台風12号の被害の甚大性は明白ですから,通例に従って作業を行うのは相当ではありません。したがって,国は,被害査定を簡略化し,かつ,査定人員を多数投入し,一刻も早く激甚災害の指定をするべきです。

7 県による長期避難世帯の早期認定を(県宛)
 県が「長期避難世帯」と認定した場合は,被災者生活再建支援法に基づいて支給される基礎支援金については「全壊」と同様に扱われ,早期の支援金の支給が可能となります。
 今回の台風12号被害では,一部地域については,山津波によって家屋が流され,あるいは陸路が寸断され,長期の避難生活を余儀なくされることは明らかで,家屋被害の調査を経るまでもない状況にあります。
 過去の例では,数日内に長期避難世帯の認定をしたこともあります。都道府県は早急に「長期避難世帯」の認定をするべきです。
以上