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 弁護士会では,しばしば市民向けの企画というのをやる。
 いろいろな目的で,お堅い企画から,ソフトな企画まで様々あるが,定番の一つに「模擬裁判」とか「構成劇」というのがある。
 どういうめぐり合わせか分からないが,この1年余りの間に,私は,3度も出演することになり,多忙の中,わずかな時間をぬって,セリフを覚えたり演技を磨いたりした経過がある。
 今回は,その経験を紹介したいと思う。
 昨年の春は,「教育基本法改正反対 愛するものは自分で決める」と題する学園劇をやった。崇高な理念を持った現行の教育基本法が改正され,愛国心や公共の精神を謳った新教育基本法が施行された時代における小学校が舞台である。
 在日韓国人3世の少女が,クラスメイトから謂われのないいじめを受けて泣いている。教師らも,新しい体制に迎合して生徒らに愛国心を強要する。そんな中,教育基本法の精神である「個人の尊厳」を大切にしようとする熱血教師が立ち上がる。そして感動の渦へ!というストーリーである。
 なかなか法律家が考えるにしては,素晴らしい内容ではないか。劇そのものはたいへん好評であり,市民への反響も大きかった。
 そういう劇で,私は,何の役を演じたか?実は,熱血先生・・・ではなく,新体制に迎合し教頭にゴマスリばかりをする金満教師という端役であった。笑いを取る役は一般には「おいしい役」と言われるが,こういうヒューマニズムあふれる劇での金満教師は,なんとも寂しい限りであった。

 しかし,この私の熱演が会内では密かに絶賛されていたのか,数ヶ月経った昨年の秋には「津久井さん,主役をお願いするよ」というお声が掛かった。
 気分は悪くない。
 今度は,新しい裁判員制度の導入を市民にアピールするための,模擬裁判劇をするとのことであった。
 今度の役は,あなたにピッタリだよ,と言われてウキウキしながら渡された台本を見ると「義父殺し」とある?不信を抱きながら,「主役」が誰であるかを確認したところ,犯人役ということである。
 またまたガックリである。
 さて,この劇のストーリーを申し上げると,神戸市の山中で老人が遺体で見つかったが,義父の介護に疲れた養子が遺産目当てに殺したのではないかと嫌疑をかけられて逮捕され,そのまま殺人罪で起訴されたというのである。しかし,養子は,認知症が進んだ義父が,誤って猫イラズを口にした事故であると主張する,というのである。
 この中における主人公を簡単に人物描写すると,普段はたいへん献身的な養子であるが,かげでは借金を作るわ愛人は作るわヤクザと付き合いがあるわ,とにかく悪いヤツという感じである。

 妻の実家に行ったときに「善人の顔をして義父を殺すんですよ。私にぴったりの役だと言われましたよ。あはは。」と話したら,私の義父が固まっていた。
 まあ,それはともかく,この劇では,市民の方々が実際に裁判員になって,私たちの証言を聞いて有罪か無罪かを決めてくれる。私の渾身の演技が通じたのか,市民の皆さんの真剣な討議の結果,私は無罪放免と相成った。これが,せめてもの救いである。

 もうこりごりと思っていたところ,今年の春,今度は,少年法改正に反対する運動の一環として,少年審判の劇をやることになった。
 この劇は,少年院送致の年齢下限(現在は14歳)が撤廃され,小学生でも幼稚園児でも,法律上は少年院に送致であるという不合理さと,厳罰主義を見直すべきだという主張を形にしたものである。
 ストーリーは,両親を嫌って家出をした小学6年生の少女が殺人未遂事件を起こしたが,審判を通じて劇的に両親との関係が改善され,更生に向かうという分かりやすい筋書きである。(このシナリオは、脚本を作った野口善国弁護士の著書「歌を忘れたカナリアたち」をご覧ください。全部出てます。)
 最初,私は,12歳の少女に殺される役だった。前回が犯人で,今回が被害者っていうのもあんまりじゃないか,と言ったところ,配役を変えてくれて裁判官役となった。しかし,セリフを見てみると,厳罰主義の権化みたいな裁判官で,頭が固くて冷たくて思い込みの激しい人間で,私が普段の仕事の上で最も苦手なタイプの役柄である。
 もっとも,与えられた役である以上,一生懸命やろうと思って,怒鳴ったり大声を出したりしたところ,主人公の子役の女の子に怖がられる結果となってしまった。いやはやなんとも。
 この劇も,感動を呼び,会場からはすすり泣く声も聞こえるほどだった。他の役を演じた弁護士は,演技中に本当に泣いたりするものだから,私などは正直驚いてしまった。

 こういう劇のようなイベントは,若手弁護士が担当するのが通例である。私は弁護士10年目で中堅に入ろうかというところである。お声がかかるのはありがたいが,そろそろ卒業したいものである。
 しかし,最後ぐらいは,2枚目の正義の味方の役をやってみたいなどと思ったりする。ケジメがつかないので,もうしばらくは続いてしまうかも知れない。
(雑誌「凌霜」366号からの転載・一部修正)
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