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 有馬学氏の「帝国の昭和」をざっと読んでみたので,感想を書いておきたいと思います。
※有馬学氏は,先日,沖縄自決軍強制問題で物議を醸した「教科用図書検定調査審議会・日本史小委員会」の委員です。
 「新しい歴史教科書をつくる会」の重鎮・監修者である伊藤隆東大教授の門下生で,日本近代史の専門家です。
 詳しくは,先日書いた記事「「集団自決」教科書問題~“専門家”にダマされるな!」をどうぞ。
 teikokusyouwa.jpg この本は講談社の「日本の歴史」というシリーズの第23巻にあたります。
 つまり,講談社の正式な「歴史全集」の一部分ということです。
 日本の戦前の「昭和戦前期」から終戦までの歴史を取り上げたものです。

 有馬氏は,多くの史料をたいへん丁寧に取り上げています。
 政局の流れなどは当時の新聞解説さながらの詳しさです
 当時の市民の文化の描写も,リアルで詳細です。
 なので,歴史通にとっては,とても興味深い内容なのだろうと思いました。
 歴史の素人である私からしても,一見すると,とても新鮮な視点を提供してくれているようにも感じられます。

 しかし…,
普通の教科書(私の場合は「山川出版社」だった)で学んだ,フツーの知識しか持ち合わせない一般市民である私にとっては,次の点が気になってしかたありませんでした。

 原爆の影響の記述がほとんどない。
 フツーの歴史観しか持ち合わせない私にとって,戦争に終止符を打った広島・長崎への原爆の影響というのは,極めて大きなものがあったと理解しています。
 また,そこでの目を覆うような悲惨な被害状況が,今日の平和の礎になっていると思います。
 山川出版社の日本史の教科書にも数行にわたるコメントがあります。
 しかし,「帝国の昭和」には次の一文と1枚の写真しかありませんでした。
八月六日,広島に原子爆弾が投下され,九日には長崎にも投下された。
 戦局や政局の描写がリアルで詳細なだけに,違和感を拭えませんでした。
 誰もが知っていることなので,あえて取り上げる必要がなかったのかも知れませんが。

 沖縄戦の自決状況について全く記述がない。
 今回,私がこの本を手に取ったのは,言うまでもなく,有馬氏が沖縄本土戦の自決についてどのような見解を示しているかを知りたかったからです。
 しかし,このあたりについての記述は,次の一文だけでした。
四月一日,米軍は沖縄に上陸を開始し,六月下旬に至るまで本島南部を中心に悲惨な戦闘が展開された。
 ここにある「悲惨な戦闘」の内容が問題なのですが,何も書かれていないというところに,同氏の主張があるのでしょうか?
 あくまで「戦闘」と書いてあるので,沖縄住民の「死」も,国民による「戦闘」の結果というように解釈するべきなのでしょうか。
 他の戦局描写のように詳細な記述がないので,読者としては想像するほかありません。

 治安維持法の影響について全く触れられていない。
 私が「治安維持法」という法律を知ったのは,法律の勉強をしたからではなく,教科書に詳しく書いてあったからです。
 (山川出版社の教科書には,治安維持法について,本文の記述のほか,コラム,史料も掲載されています。)
 戦前の市民生活に,この「治安維持法」が大きく影を落としたことは事実だろうと思います。
 また,法社会学的に見れば,日本が戦争という愚挙に及んだ背景に,この悪法の存在は欠かせないと見て間違いないと思います。
 ところが,「帝国の昭和」の本の中には,
 治安維持法 
という言葉そのものが見当たらないのです。
 (少なくとも索引に「治安維持法」という言葉はありません。普通選挙法実施,共産主義弾圧,国民の意識など,関連しそうな記述部分にも見当たりませんでしたが。どこかに埋もれて,見落としていたならごめんなさい。)
 治安維持法の影響の歴史的検証がないまま,今日,次々に導入されようとしている悪法の数々の是非を論じることができるのでしょうか。
 私は,そのことも心配になりました。


 もう一つ「南京事件」の捉え方についても驚きを感じましたが,これはまた別記事とします。

 いずれにしても,私は,歴史論争のひとつの側面を垣間見ることができたのが,何よりの収穫でした。
 ひとつの側面というのは,

   歴史観の違いは,

   イデオロギーの対立という形であらわれるのではなく,

   ある事実に対し,目を凝らすか,それとも,目を逸らすか,

   の違いという形であらわれる


ということでした。
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