前回に引き続き,模擬裁判の様子のレポートです。
 メルマガ(→こちらをどうぞ)での朝本先生の記事に書かれているとおりの滑り出しでした。
1 平成20年10月27日及び28日の2日間,神戸地裁,神戸地検及び兵庫県弁護士会が合同で,傷害致死事件を素材とした裁判員裁判の模擬裁判を実施しました。

2 前回,起訴状を載せましたが,被告人・弁護人も傷害致死で処罰されることは争いません。
 争点は,
   (1)実刑判決,即ち被告人を直ちに刑務所に入れる懲役刑か,
   (2)懲役刑を言い渡す判決ですが,その懲役刑の執行(刑務所への収容)は,数年執行は猶予し,立ち直るチャンスを与える執行猶予を付ける刑が相応しいのか
です。
 被告人・弁護人は,犯行態様に関しては,次のように主張しています。
 ・・・・・・・・以下つづく


 このあと,メルマガの記事では,私が担当した弁論の内容が続きますが,私の手元に全文がありますので,後に引用させていただきます。

 そんでもって,たとえば証人尋問などは,次のように進められました。
 メルマガからの引用です。
尋問要旨(証人・被害者の妻)

【弁護人】貴方は,亡くなられた奥田英一さんの奥様ですね

【証人】はい

【弁護人】先程,検察官が読み上げたあなたの調書に,このようなことが書いて
ありました。
 「生前夫も,心から感謝していましたし,島に対し,申し訳ないといつも話し
ていました」
これは,被害者の奥田英一さんご本人のお気持ちをお話しなった内容ですが,奥
様のお気持ちはどうでしたか

【証人】私も,全く同じ気持ちでした。恩人のように思っていました

【弁護人】あなたのご主人である奥田英一さんが,この事件で亡くなられた訳で
すから,犯人に対する憎しみや恨みは相当あると思うのですが,如何でしょうか

【証人】犯人が島さんでなければ,絶対に許しませんでした。しかし,島に対
しては,こちらの方が申し訳ないという気持ちです

【弁護人】端的に言うと?

【証人】島さんを恨んでいません

【弁護人】そのお話しに,合点がいかない裁判員の方もおられると思います。理
由をお話し頂けるでしょか

【証人】はい,島さんは,私達夫婦の恩人でした。島さんに対し主人が言った
言葉は,島さんが怒るのも当然だからです

【弁護人】あなたは,ご主人を死に至らせた島さんに対して,どんな刑罰を望ん
でいますか

【証人】刑務所に入らず,1日も早く社会に戻ってきて貰いたいです

【弁護人】ここは,非常に大事なところです。裁判員や裁判官の皆様が最も関心
を持っておられますので,もう一度お聞きします。執行猶予の付いた判決でも構
わないのですか。

【証人】構わないではありません。絶対にそうして下さい。私は島さんに今後
も助けて貰いたいのです
                                (続く)
 私が担当した弁論の様子(下準備バージョン)です。
 ただし,当日の審理の状況に応じてかなり変更があり,また,その場の雰囲気に合わせてメリハリの内容も変わりましたので,こんな感じかな?っていう程度で受け取って下さい。
 かなり長いです。すみません。
1 私は,島さんの弁護人の津久井です。
 裁判員の皆様におかれましては,裁判という初めてのご経験で,たいへんお疲れのことだと思います。
 恐縮ですが,これが最後です。もう少しだけ,お時間をいただきたく存じます。
 私が,皆様にお話ししたいことは4点だけです。時間も15分程度です。
 お伝えしたいポイントは,ここに書いてあるとおりで決して難しいことは喋るつもりはありません。どうぞ,よろしくお願いします。

2 ポイントに入る前に,まず,私たちがなぜ島さんを弁護するのか,についてお話をしておきたいと思います。
 私たちは,決して島さんのことだけを考えて弁護をしようと思っているのではありません。
 弁護人としても,島さんが傷害致死罪に問われることに何ら異論はありません。
 私たちは,①ご遺族の方々の気持ちに応えること,そして②島さんを支える方々の思いに応えることを忘れてはならないと思っています。
 さらに,③愚直なほどに真面目に働いてきた人間が事件を起こしてしまったときに,どんな報いが社会的に妥当なのかを,今日の法廷での証拠や証言に基づいて,裁判員の皆様と一緒に真剣に考えたいと思って弁護を行っています。
 どうぞ,この私たちの思いを汲んでいただければと思います。

4 それでは,第1点目のポイントについてお話しします。
 本件が,不幸な偶然が積み重なって起こった結果であるということです。
 みなさんは,「傷害致死事件」という言葉を聞いて,どんなイメージを持たれるでしょうか。
 同じ傷害致死事件であっても,殴り殺してしまったという,まさに凶悪な事件もあるでしょう。
 一方,殴ったその弾みで,さまざまな偶然が重なって起きてしまった事件もあるでしょう。
 かけがえのない人の命が失われたという重みは全く変わりませんけれども,加害者が背負うべき責任の度合いは,大違いではないでしょうか。
 それこそ,市民の感覚です。

 島さんは,思いっ切り奥田さんを殴っているでしょうか。そんな証拠はありません。
 椅子に座ったまま,足も地面に付かない姿勢で,全身の力を込めて思いっきり殴ることなど不可能でしょう。
 また,検察官の主張では,島さんが奥田さんを床上に転倒させるなどの暴行を加えたとされています。そうなんでしょうか?
 奥田さんは,隣の椅子に仰向けに倒れ,小さい椅子だったことから,椅子と椅子との間から床に落ちたというのが実情です。
 致命傷になった脳内出血は,高い位置の椅子から落ちて,固い床に頭を打ち付けられたことが原因でしょう。

 つまり,
1 島さんが奥田さんを殴りましたが,これは致命傷になるとは思えません。
2 その後,奥田さんの力が抜けてイスに倒れます。
3 その前後に島さんは特に何もしていません。
4 この小さい椅子から奥田さんは床に落ちます。
5 そして,高いところから落ちて固い床に頭を打ち付けられる,
という流れです。
 このような流れが,事件の真相と考えるのが自然ではないでしょうか。

 島さんが意図していたことは何でしょうか。
 殴り続けることでしょうか。いや違うでしょう。
 いすに倒すことでしょうか。これも違うでしょう。
 高いイスから床に突き落とそうということでしょうか。
 それとも,奥田さんを死なせようということだったでしょうか。断じて違います。

 この事件は,島さんも思いもよらない偶然が積み重なって起きた不幸な事件です。
 裁判員のみなさまにおかれましても,当時の状況を,島さんの立場に立ってできるかぎりリアルにイマジネーションを働かせ,真相を思い浮かべていただきたいと思います。

5 次に参ります。
 2つめはご遺族の意向を尊重すべきだということです。
 そもそも処罰とは,誰のための処罰であるべきか,を忘れてはなりません。

 この法廷で,私たちが触れたご遺族のお気持ちはどうだったでしょうか。

 愛する夫を喪った奥田夕子さんはどんなご証言をされたでしょうか。
 島さんを刑務所に入れないで欲しい,今後も自分を助けて欲しいとおっしゃいました。
 どんな悲しみの中で,思いをふり絞って,ご証言をされたんでしょうか。

 かけがいのない息子を失った奥田芳江さんはどんなご証言をされたでしょうか。
 はっきりと島さんを許しているとおっしゃいました。さらに,島さんの母親の気持ちにまで配慮をなさるご証言をされました。
 聞いていた私たちにも,胸に込み上げるものがありました。

 そして,忘れてはならないのは,亡くなった奥田さんのお気持ちです。
 もちろん,奥田さんがどんなに無念であったかは,言葉には尽くせません。
 しかし,もしこの法廷に奥田さんがいらっしゃったら,島さんを重く罰して欲しいとおっしゃるでしょうか。
 すでに,答えは明らかだろうと思います。

6 次に参ります。
 3点目は,島さんの反省の気持ちをどう評価するかです。
 もちろん,島さんは,大変なことをしてしまったということで,深く後悔し,反省をしています。
 その態度が真摯であることは,この法廷で実際にご覧いただいたかと思います。
 その反省がいかに深いものであるかも,伝わってきたかと思います。
 私は,この反省が誠実であることも確信しています。

 そして,忘れてはならないことは,島さんにとって奥田さんがどのような存在だったかということです。
 島さんにとって,奥田さんは,一心同体となってほとんどの時間を共有するパートナーでした。
 島さんが,街金から借金したり,自宅を抵当に入たりしたのも,まさに,奥田さんを人間的に信頼していたからです。
 その敬愛する奥田さんを,自らの過ちによって死なせてしまいました。
 島さんが,奥田さんの死をいかに悲しみ,後悔しているかは,言うまでもありません。

7 4点目として,今回の量刑でご考慮いただきたい他の事情について触れておきたいと思います。

 まず,ご遺族との間で示談が成立しているということです。
 今,法廷で検討しているのは刑事の責任ですが,島さんが行うべき償いは,処罰を受けることだけではありません。
 むしろ,ご遺族のことを考えますと,示談という形で償いをすることは,民事的にも社会的にも重要です。
 400万円という金額が現在の島さんの行える最大限の内容であることを考えますと,示談したことは,極めて重要です。

 この示談をきちんと実現するために就職先も大切です。
 そういう意味では,今後も真面目に働いていくことは,償いの一環と評価できます。
 また,社会人としてきちんと過ごしていくことも,重要な量刑要素です。

 この島さんが,社会に戻って生きていくのを支えために,きちんとした母親の存在があるも重要です。
 さらに,島さんを支える10人の人々が,嘆願書も提出しました。
 その方々の気持ちを尊重することも,社会的な要請ではないでしょうか。

 そのほか,島さんの年齢が若いこと,これまで前科や前歴がないこと,すでに長期間にわたって留置所や拘置所に勾留されて処罰に等しい処遇を受けてきたことなど,その他に考慮すべき事情もありますが,それらについては,後ほど裁判員のみなさまには弁論要旨をお渡ししますのでご覧いただければと思います。

8 最後に,島さんの量刑を決める上で,私たちからご考慮いただきたいことを少しだけ付け加えさせてください。
 それは,「懲役」というのは,刑務所に入れることである,ということです。

 当たり前に思われるかも知れません。
 しかし,では,みなさんは「刑務所」というところが,いったいどんなところなのかご存知でしょうか。
 刑務所は,反省を促しながら,職業訓練をします。また,刑務所には罪を犯した危険人物も大勢います。
 十分に反省をし,職業人として真面目にやってきて,そして,心ある家族や知人に囲まれた島さんを,そこに入れる必要があるかどうか,というのが基本的な問題です。
 つまり「誰のために,何のために刑務所に入れるのか」を考えるために,今日の裁判があるわけです。
 島さんに与えるべき「罰」のかたち,「償い」のあり方を考えていただきたいのです。

 おそらく,裁判員の皆さんには,評議に当たっての参考資料として量刑一覧表のようなものが配布されると思います。
 しかし,そこに機械的に当てはめるようなことでは,裁判員裁判の意味がありません。
 わたしたちとしては,そういった無味乾燥な作業ではなく,まさに,この目の前にいるこの人に対し,今,私たちが検討してきたこの事件を直視して,どういう償いが妥当なのかを,考えていただきたいと思っています。

9 最後に,私たち弁護人の意見を申し上げます。
 これら事情を踏まえまして,島さんに対しては懲役という罰を与えつつも,遺族の方々のご意向も汲んで,その期間としては酌量減軽して2年が適切だと考えます。そして,これからの社会内での償いを始められるように,3年間の執行猶予を付けるのが適当だと思います。

 私からは,以上です。
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