日弁連が,
    ◆年間2100~2200人程度の司法試験合格者を出して
    ◆10年後に法曹人口5万人をめざす
という提言を出そうとしています。

 この動向に対し,法曹界では,NO!を建言する動きが出ています。

 兵庫県弁護士会の武本夕香子弁護士が,「意見書」を公表し,全国の弁護士に賛同を呼びかけています。

 私も賛同しました。

 意見書(全国版)は,後に引用していますが,とても長いので,私なりに注目すべきポイントをごく簡単に整理してみます。


1 法曹人を5万人に増やしても,受け入れる基盤や司法の仕組みがない!

2 事件も依頼も減ってるのに,法曹人だけ増やしてどうするの? 

3 外国よりも法律実務家の数が少ない,というのは事実と違うぞ!

4 本当に市民(≠企業)が弁護士の数を増やして欲しいと言ってるの?

5 そもそも5万人とか2000人台という数字自体に根拠がない!

 法曹人口の問題をいろいろ考えていくと,かなり見えなかった社会の実態が見えてきたり,これからの社会のあり方について考えさせられます。

もともと,

 人口が増える → 競争原理が働く → 安くて質の高い弁護士が増える → 利用者満足

というシナリオを頭に描いて進められてきた法曹人口増員運動ですが,今のところ,

 人口が増える → 危機感が亢進 → 事件漁りや,公益活動からの撤退が進む → 司法不信

というシナリオが,司法界の人々には透けて見えてきた感じです。

もともと,弁護士は,法律上,
       「基本的人権の擁護」と「社会正義の実現」
という非営利目的を,ミッション(使命)と規定されている職業なので(弁護士法1条),無策に競争原理にさらしたら副作用が起きるのは(そういう意味では,医療,教育などと同じ非営利公益目的なんですよね),当然と言えば当然なのですが。
                     意  見  書
 
日本弁護士会 会長 宮崎誠 殿

                                2009年3月 日
                                賛同者 別紙のとおり
        

  私達有志は、日本弁護士連合会(以下、「日弁連」という。)作成の「当面の法曹人口のあり方に関する提言(案)。以下、「本件提言案」と言います。」について、2009年3月18日に行われる日弁連理事会決議について下記意見を上申致します。
                                記
第1 意見の趣旨
 1 2009年3月の理事会で、本件提言案を拙速に決議すべきではない。
 2 仮に上記理事会で決議が採られる場合、日弁連作成の本件提言案は、否決されるべきである。

第2 意見の理由
   第1項「意見の趣旨」記載の意見を述べるべきと考える理由は以下の通りである。
 1 決議を採るべきではないことについて
(1) 日弁連執行部は2009年2月、本件提言案を発表した。そして、2009年3月に開催される日弁連理事会で審議し、議決する予定である。しかし、本件提言案は、発表されたばかりであり、会内ではその存在自体全く知られていないものである。
(2)  しかも、その内容は、①法曹人口5万人規模の態勢整備を前提とするものであること、②今後数年間にわたる司法試験合格者数につき、2100人から2200人を目安に決定すべきことを提言したものである。
しかし、弁護士業務総合推進センター法的ニーズ法曹人口調査検討プロジェクトチームが作成した2008年(平成20年)3月7日付「報告書」には、様々な法的需要について調査・検討が行われた結果、「10年後の2018年(平成30年)において、現在の2倍に相当する5万人規模の弁護士人口を安定的に吸収しうるだけの法的ニーズを予測することも困難といわざるを得ない。」と結論づけられている。日弁連の様々な調査・検討等を通じて2018年頃における法曹人口5万人規模の需要がないことは明らかになっている。
ところが、本件提言案によれば、「2020年頃には5万に規模に到達」する2100人から2200人を目安にする旨記載されており、本件提言案は、日弁連の弁護士業務総合推進センター法的ニーズ法曹人口調査検討プロジェクトチームの報告書の内容を明らかに無視し、矛盾した内容となっている。
日弁連は、会員に対して日弁連の弁護士業務総合推進センター法的ニーズ法曹人口調査検討プロジェクトチームの報告書の存在や内容、今回の提言案の存在や内容について、更に言えば、何故、2009年3月理事会において提言案を可決しなければならないかといった必要性や緊急性等について全く説明責任を尽くしていない。
(3)  これまでの間に各地で発表された会員のアンケート調査等によれば、合格者の適正数を1000人程度とするのが5割程度、1500人程度までとする声を含めると大半の会員が賛成していることが認められるが、提言案はこれらアンケート結果、すなわち会員の意見をも無視するものである。
(4)  また、2100人から2200人といった数字は今回初めて出されたものであり、これまで会内で一度も議論されたことのない数字である。前述したとおり、本件提言案は、2009年2月頃に発表されたばかりで、2100人から2200人と言った数字について、会内討議どころか、会員に周知徹底される手続きもほとんど行われていない。
    前述のとおり、会員の中には、日弁連の弁護士業務総合推進センター法的ニーズ法曹人口調査検討プロジェクトチームの報告書の存在を知らない会員も多く、当然のことながら、日弁連の法的ニーズの調査検討結果を踏まえた上で、「2100人から2200人」と言った司法試験合格者数について各単位会内で討議された実績はないのである。
(5)  法曹制度の根幹を形成する法曹人口について、このような提言案を、発表からわずか1か月で議決してしまうなどということは、暴挙に等しいものと言わざるを得ない。
(6)  これまで、各地で法曹人口5万人を前提とした3000人増員計画の見直しを求める決議が次々と出されている。その上、日弁連の弁護士業務総合推進センター法的ニーズ法曹人口調査検討プロジェクトチームの調査・検討結果等により5万人規模の需要がないことが明白になったにもかかわらず、中間意見書という性質のものではなく、ほとんど最終意見書に近いものを、理事会で拙速に決議を経るべきではない。
現段階で、2100人から2200人とすべきとする提言案をわざわざ理事会で決議する必要性はどこにもないのである。
(7) 提言案は、「提言の理由」において、「法曹養成制度が発展途上にあること及び制度的基盤が未成熟であること等の状況をも考慮すると、2010年頃に年間合格者数を3000人程度とした当初の数値目標にこだわることは適切でない。」と述べるのみで、今後数年間にわたる合格者数の目安を2100人から2200人程度とすることが適切であることの理由をほとんど述べてない(なお、本件提言案に記載された理由らしき理由が不合理であることは後述する。)。また、本件提言案が提言する合格者数を維持すれば、合格者数が3000人程度になった場合と比べ、約2年遅れる程度で法曹人口5万人が達成されると試算しているのであるが、その2年間で現在の法曹養成制度の抱える問題点が解消し、制度的基盤も整備されるのかどうかについては、全く何も触れていない。
    たとえば、法科大学院の抱える問題点を改善するためには「なお一定程度の時間が必要である。」とし、新規登録弁護士のための新たなOJTの企画・立案・整備には「なお相当程度の時間的猶予が必要である。」としながら、実際にどれだけの時間が必要となるのかを明らかにしないばかりか、どのようにしてこれを改善していくのかという具体的展望も一切示すことができないでいる。これでは、法曹人口5万人達成が2年遅れる間に問題点が解消することはあり得ないということを本件提言案自らが認めているようなものである。
(7)  基盤整備の問題に至っては、「弁護士に対する法的需要がこれから5年間程度で飛躍的に増大していくことを見込むことは困難」、「民事法律扶助予算については、先進諸外国と比較しても極めて低額に抑えられたまま」、「法曹人口の増加だけでは、過疎偏在の解消を実現することは不可能」、法テラスの「コールセンターへのアクセス数など、情報提供業務の利用率と民事法律扶助の利用件数は、潜在的な法的需要に比して期待されるほどには増加していない」、「裁判所・検察庁の人的・物的基盤の整備については、未だ極めて不十分」等々、現状の問題点を縷々あげるのみで、法曹人口5万人の達成を2年遅らせることによってこれらの問題点を改善できるのかどうかという点については、一切述べられていない。
(8)  更に言えば、提言案は、2100人から2200人にして、法曹人口が5万人規模になった2020年頃以降、その後も引き続き2100人から2200人の合格者数を維持し続けていくべきか、直ちに司法試験合格者数を大幅に削減するのか、等2020年頃以降の展望について全く触れていない。
(9)  法曹人口問題という法曹制度の根幹に関わる重要な問題について、日弁連が理事会決議で提言案を可決すると言うことは、社会的にはきわめて重いことであり、会内での十分な議論等を経ないでこのような提言案を拙速に決議すべきではない。
 2 否決されるべきであることについて
(1)「法曹人口5万人規模の態勢」を前提としていること
   日弁連の本件提言案の提言の趣旨第1項には、「法曹人口5万人規模の態勢整備に向けて、引き続き最大限の努力を行う。」としている。
   しかしながら、「法曹人口5万人」という数字自体に何らの合理性はない。
   本件提言案には、2100人から2200人を前提とした場合でも「2020年頃には5万人規模に到達する。」と記載され、本件提言案の基となった2009年(平成21年)2月2日付け法曹人口問題検討会議作成の意見書(以下、「本件意見書」と言う。)にも、「われわれが提言する年間2100人から2200人程度で法曹人口が増加していった場合であっても、2019年(平成31年)頃には法曹人口5万人に到達する」と記載されている。
   そして、本件提言案には、5万人規模にする理由として「市民が必要とする法曹の数を確保していくべきであり、具体的には、2000年11月1日の当連合会臨時総会決議や2001年6月12日付司法制度改革審議会意見書が示した5万人規模の法曹人口(裁判官・検察官・弁護士)を目指し、毎年着実に法曹人口を増加させていくべきである。」と記載されている。本件提言案の基礎となった本件意見書にも法曹人口5万人の根拠として、「わが国社会の隅々にまで「法の支配」を確立するためには、量的にも質的にも豊かな法曹が存在しなければならないと考える(中略)。これまでの法曹人口(司法試験合格者数)は、法曹三者の取り決めで決定されていたが、法曹の数は、あくまでも司法の利用者たる市民が決定するものであり、司法改革審議会が提言した法曹人口5万人については、今次司法改革の実りある結果として乗り越えなければならない数値である」と記載されている。
   本件提言案と本件意見書には、「法曹人口5万人規模が相当である」と言うことと「法曹人口は市民乃至市民の需要が決めるべきである」との2つの内容が記載されている。
   そして、本件提言案と本件意見書の中で、法曹人口5万人が相当であるという理由としては、2000年11月1日の当連合会臨時総会決議や2001年6月12日付司法制度改革審議会意見書が法曹人口5万人を前提としていること及び「法の支配」の確立があげられているだけで、それ以外に法曹人口5万人が相当であるとの合理的な理由は見受けられない。
   ところが、2000年11月1日の当連合会臨時総会決議にも2001年6月12日司法制度改革審議会意見書にも何故法曹人口5万人が相当であるかといった法曹人口5万人を導き出す合理的根拠はほとんど記載されていないに等しいのである。
   従って、2000年11月1日の当連合会臨時総会決議及び2001年6月12日司法制度改革審議会意見書を根拠とする本件提言案及び本件意見書には、「法曹人口5万人が相当である」との合理的理由は存在しないと言えるのである。
   この点、「2000年11月1日の当連合会臨時総会決議にも2001年6月12日司法制度改革審議会意見書にも何故法曹人口5万人が相当であるかとの合理的な理由付けは存在するのであって、理由付けが存在しないというのは評価の問題である」旨の反論が考えられるので、上記臨時総会決議及び司法精読改革審議会意見書を検討してみる。
(一) 2000年11月1日の日弁連臨時総会決議について
2000年11月1日の日弁連臨時総会決議の決議理由として5万人が相
当であるとの理由らしき部分をそのまま以下にゴシック太字体で引用する。
「(3) 国民が必要とする適正な法曹人口
ところで、国民が必要とする適正な法曹人口を試算するには、一般論ではあるが、次のような諸要素を総合的に考慮して検討するアプローチが考えられ、既にそのいくつかは試算結果が公表されている。
1. 法律相談、法律扶助、国選弁護、当番弁護士など法的ニーズから必要数を積算する方法
2. 民事法律扶助の拡充、国費による被疑者弁護制度の実現など司法基盤整備の状況を考慮する方法
3. 東京都や大阪市の人口と弁護士数の比率により、日本全体の弁護士数を推測する方法
4. 実質GDPの上昇比率と法曹人口増加率の比実質GDPの上昇比率と法曹人口増加率の比較
5. 法人数の伸び率と法曹人口増加率の比較
6. 地域司法計画による積み上げ
7. 外国の弁護士人口と国民人口比率との比較
8. 新たな法曹養成制度の整備状況 」
上記記載内容は極めて抽象的であり、法曹人口として5万人が必要であると
の結論は導かれ得ない。また、仮に上記理由を検討したとしても、現在の2万7000人の約倍に相当する法曹人口5万人が必要である理由にはならない。
 ①法律相談件数、法律扶助、国選弁護、当番弁護士
2007年度版弁護士白書(別紙1-①乃至⑥)によれば、2004年度の法律相談の総件数は53万0406件であったのが、2005年には52万2673件に減少しており(別紙1-①)、その後も法律相談件数は減少している。また、国選の件数は、地方裁判所における刑事裁判の事件総数は、2003年をピークにして微減傾向にあり(別紙1-②)、簡易裁判所における刑事裁判の事件総数も同様に2003年頃をピークに微減傾向にあり(別紙1-③)、近年、刑事事件数が必ずしも増加しているわけではない。
民事法律扶助も代理援助件数は、2004年に4万8435件、2005年に5万318件だったのが、2006年には、前年度の半分の2万8426件(別紙1-④)に半減しているだけでなく、司法関連予算も司法修習生手当予算こそ人数の関係で倍増しているものの、それ以外の検察審査会予算、検察庁予算、法律扶助事業費補助金はいずれも減少している(別紙1-⑤)。更に、裁判所管歳出予算の国家予算に占める割合は、1960年には0.881%だったのが、2007年には、0.399%と半分以下の割合になっており(別紙1-⑥)、国家の司法予算等といった基盤整備も全く整っていない。
また、裁判官・検察官増員の問題であるが、2007年と2008年を比較すると、本件提言案に記載されているとおり、2007年度に判事補として採用されたのは、118(5%)であったのに、2008年度には99人(4%)と19人も減少している。検事も2007年には113人(5%)だったのが、2008年には93人(4%)と20人も減っている。
裁判官及び検察官がそれほど増やされていない、或いは、減少しているのに、弁護士数のみが激増しているというのが現状である。
本件提言案にも、「裁判官・検察官の大幅な増加が意図されていたところ、それらの増加は、司法試験合格者の増加に比例せず、弁護士だけが大幅に増加している」ことを認めている。
弁護士数のみが激増しても、日弁連の主張する「法の支配」が社会の隅々にまで行き渡るとは考えられず、法曹人口5万人を前提とした人的基盤が整っているとは言えない。
 ②民事法律扶助の拡充、被疑者弁護制度
   法律扶助の件数が激減していることは前項記載の通りであるが、例えば、日本司法支援センター兵庫地方事務所作成のビラ(別紙2)を見ても、民事法律扶助の件数が少なくなっていることは明白である。
③東京都や大阪市の人口と弁護士数の比率により、日本全体の弁護士数を推測する方法
事件数の違いや企業の数や経済事情、文化や歴史等々地方の事情等を全く無視して、東京や大阪等といった大都市と同じ割合で地方にも弁護士数を配置するなどというのは、全くのナンセンスである。例えば、2005年度の東京の弁護士1人あたりの人口は1175人である。平成17年度の国勢調査によれば、我が国の人口は、1億2776万7994人であることから、仮に、東京と同じ割合の弁護士を配置すると、10万8738人の弁護士が必要になる。同じように考えて計算すると、大阪の弁護士1人あたりの人口は2962人であることから、大阪と同じ割合で全国に弁護士を配置すると仮定した場合でも、4万3135人で足りる。全人口総数を東京と大阪の弁護士1人あたりの人口を平均した2068人で割ったとしても、6万1783人の弁護士総数で足りるのである。
企業が乱立し経済活動が活発な東京や大阪でも弁護士過剰に陥っているのである。企業等がないだけでなく、主な産業もなく、高齢者の割合が極めて高い地方で東京や大阪と同じ割合の弁護士が配置される必要性はどこにもない。
例えば、2008年度版弁護士白書の特集2「弁護士の大都市偏在と訴訟需要」によれば、東京の1人あたりの訴訟需要は、76,890円であり、大阪では38,388円である。よって、東京は、全国平均22,444円の約3.4倍、大阪で約1.7倍(別紙3-③)と、当然のことながら、東京と大阪の訴訟需要は非常に高い。
しかも、1人あたりの訴訟需要の全国平均である22,444円を超えるのは、東京・大阪・京都のわずか3府県にすぎず、この3府県が全体の平均訴訟需要を押し上げているのである。
10万人あたりの訴訟事件数も、東京は、258.83件で全国第1位(別紙3-⑤)、大阪は、190.86件で全国第2位である(別紙3-⑥)。
東京都や大阪府の経済活動の規模や活発さ、人口密度の高さや人口構成及び法人数の多さ等を考えれば、東京都大阪が全国の中で突出して訴訟需要が高いことはあまりにも当然のことである。
にもかかわらず、東京、大阪と他の地域の弁護士に対する需要の落差を無視して東京と大阪の弁護士人口割合の規模を全国に行き渡らせる等ということは、あまりにも非現実的であると言わざるを得ない。
その上、全体的に見て、2006年度の訴訟需要は、2000年と比較しても明らかに減少しているのである(別紙3-③)。
2008年度弁護士白書によれば、弁護士数の激増により、2000年との対比で弁護士率(10万人あたり弁護士数)は、2006年度には45.2%と約1.5倍に増加し(別紙3-①)、その分訴訟選任率もかなり増加しているべきであるにもかかわらず、2006年の単純弁護士選任率(双方又は一方に弁護士が付いたもの)は、0.2%の増加にとどまり、修正弁護士選任率(双方に弁護士が付いたものを2,一方のみに付いたものを1として計算したもの)に至っては、2.6%も減少している(別紙3-②)。
2006年と2000年の平均訴額の比較で言うと、12.4%(別紙3-③)、1人あたり訴訟需要は、14.6%も減少している(別紙3-③)。弁護士1人あたりの訴訟事件数は、21.7%、弁護士1人あたりの訴訟需要は、33.1%も減少している(別紙3-④)。
勿論弁護士の業務は、訴訟だけではなく、訴訟以外の業務もあることは当然の前提である。しかし、我が国の士業は、他国と比較すると非常に細分化され、個々の士業が社会的にも一定の役割を占めている現状下で、弁護士業務に占める訴訟の割合や重要性が依然として多大であることは誰しも否定できないであろう。また、弁護士業務において訴訟需要の減少を補完しうる業務拡大は未だ実現されていない。その意味において、訴訟需要が弁護士に対する需要の重要な指標になることは確かである。そして、どの統計を検討しても、弁護士の需要が増加しているとは言えない。それどころか、弁護士の需要は、統計上減少しているのである。
にもかかわらず、いかなる地方でも大阪等と同じ密度の弁護士数が全国に必要になるというのは考えられないのであって、5万人という数字が非現実的な数字であることはもはや明白である。
 ④実質GDPの伸び率
GDPの伸び率であるが、2009年2月16日に内閣府が発表した08年10~12月期の国内総生産(GDP)速報によると、物価変動の影響を除いた実質GDP(季節調整済み)は前期比3.3%減、年率換算では12.7%減と主要国で最も急激な落ち込みで、第1次石油危機の影響を受けた74年1~3月期(13.1%減)に迫る勢いである(別紙4)。また、名目GDPを実質化するGDPデフレーター指数も1997年後半から1998年にかけては、プラスを記録していたものの、その後は、一貫してマイナスを記録し、2003年にマイナス3まで急激に落ち込み、その後、若干持ち直したものの、2007年後半から再び急激に落ち込み始め、2003年のマイナス成長に迫る勢いにまで来ている。すなわち、実質GDPと比較検討すれば、弁護士数はこれまでほどの人数は必要ないと言うのが結論となるべきなのである。
⑤法人数の伸び率
法人数は平成8年をピークに徐々に減少している(別紙5)のであり、法人
数の増減と比較した場合でも弁護士数は当初の予定より減らすべきというのが合理的に導かれる結論なのである。
⑥外国の弁護士人口と国民人口比率との比較
他の国では、税理士等他士業が存在せず、これらの業務を「弁護士」が行っている。ところが、わが国では、法的業務が司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士、弁護士等に細分化しており、各士業もそれぞれ人数が急増している。また、事件数や国民性、法制度も我が国と諸外国とでは全く異なる。例えば、最高裁判所が公表している「諸外国との法曹人口との比較」(別紙6)を見ると、1997年段階で、諸外国の民事第1審新受件数は、アメリカで1567万0573件、イギリスで233万8145件、ドイツで210万9251件、フランスで111万4344件、日本は42万2708件と諸外国と比較して異常に少ないのである。民事の新受件数を弁護士数で割ると、各弁護士1人当たりの事件数は、アメリカで17件、イギリスで29件、ドイツで25件、フランスで38件、日本は26件となり、諸外国と比較して、日本の弁護士1人当たりの抱える事件数は諸外国と比較してむしろ少ない方である。刑事第一審訴訟新受件数を比較しても、アメリカが1412万4529件、イギリスで9万1110件 、ドイツで82万9720件、フランスで42万5158件 、日本では8万9634件となっている。刑事の新受件数を弁護士数で割ると、弁護士1人当たりが抱える刑事の新受件数は、アメリカが15件、イギリスが1件、ドイツが7件、フランスが14件、日本が5件となり、日本の弁護士の抱える事件数は諸外国と比較して少ない方なのである。しかも、脚注に示されている通り、フランスやイギリスの事件数は、少なく見積もられた事件数である。少なく見積もられた事件数と我が国の事件数を比較しても、わが国の弁護士1人あたりが抱える事件数は少ない。従って、事件数で比較しても諸外国に比べて我が国の弁護士の数が少ないとは言えないのである。しかも、1997年当時、わが国の弁護士数は、1万6000人強に過ぎなかったが、2009年1月現在、約2万7000人の弁護士が存在し、約1.7倍の弁護士数になり、かつ、わが国の事件数は、平成15年をピークに減少の一途を辿っているのである(別紙7)。
従って、現在の事件数と弁護士数を諸外国と比較した場合、益々日本の弁護士1人当たりの抱える事件数は諸外国と比較して減少していることが容易に推認されるところ、諸外国と比較してわが国の弁護士数が足りないとは到底結論づけられない。
 ⑦新たな法曹養成制度の整備状況
法科大学院は、志願者数の減少や定員割れの状況を受け、9割が定員削減等を検討することを発表しており、2008年10月30日付中央教育審議会特別委員会の中間報告でも「自主的な定員削減や統合を求めること」が盛り込まれた。
法科大学院への志願者数が減っており、定員割れを生ずる法科大学院まで出てきているだけでなく、法学部自体の志願者数が特に大手私大でさえ激減しているのである。
また、人数の増加に伴い、修習生の修習期間は2年から1年に短縮され、密度の濃い修習が行われているとは言えない状況に陥っている。更に、現実に就職できない弁護士や登録自体できない修習生を多数生み出しており、法曹養成制度の態様が急激に悪化しているとさえ言える。
よって、法曹養成制度の基盤整備という観点からしても、もはや法曹人口5万人という概念は破綻に瀕していると言っても過言ではない。
(二) 2001年6月12日司法制度改革審議会意見書について  
司法制度改革審議会意見書で、法曹人口5万人が相当であるとの理由らしき
部分をゴシック太字体で以下に引用する。
「今後、国民生活の様々な場面における法曹需要は、量的に増大するとともに、質的にますます多様化、高度化することが予想される。その要因としては、軽罪・金融の国際化の進展や人権、環境問題等の地球的課題や国際犯罪等への対処、知的財産権、医療過誤、労働関係等の専門的知見を要する法的紛争の増加、「法の支配」を全国あまねく実現する前提となる弁護士人口の地域的偏在の是正(いわゆる「ゼロ・ワン地域」の解消)の必要性、社会経済や国民意識の変化を背景とする「国民の社会生活上の医師」としての法曹の役割の増大など、枚挙に暇がない。これらの諸要因への対応のためにも、法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題である。このような観点から(中略)実働法曹人口は5万人規模に達する」とある。
 しかし、事件数は、平成15年をピークに、減少の一途を辿っており(別紙7)、平成19年の事件数も平成18年度を更に下回っている。
 また、「法の支配」概念の誤用は置くとしても、ゼロ地区は、近時復活した1カ所を除いてもはや存在しなくなった。2000年から2008年6月2日までに、86カ所のひまわり基金法律事務所を創設し、2008年6月2日には日弁連自身が「「弁護士ゼロ地域」の解消に関する会長談話」を発表したことは記憶に新しいところであるが、日弁連らの努力によりゼロワン地区は急激に減少しており、地域的偏在の是正の必要性からしても、法曹人口を増加させる必要性は減少している。弁護士過疎地域の山形県弁護士会でさえ、合格者増に疑問を呈している(別紙8)
そもそも司法過疎解消のために何故法曹人口5万人が必要なのか、数字の根拠は示されていない。その他の部分も同じく、抽象的な概念が述べられているだけで実働法曹5万人が必要との具体的根拠は見あたらない。「国民の社会生活上の医師」としての法曹の役割の増大というが、日弁連が実施したアンケートから企業内弁護士の需要は存在しなかった(別紙9)のである。その他後述するように、市民からの需要も存在しなかったのである。
 仮に、弁護士に対する市民や企業等社会的な需要があるのであれば、これほどの就職難や登録自体を断念せざるを得ない有資格者の増大を生み出すことはなかったであろう。
 結局、法曹人口5万人が必要だとの合理的な理由は存在しないのである。
本件提言案の第4項「法的需要と司法アクセス」2「法的需要」において、日弁連自身「改革審議会は、「今後、国民生活の様々な場面における法的需要は、量的に増大するとともに、質的にますます多様化、高度化することが予想される」とし、その要因として、①軽罪・金融の国際化の進展、②人権、環境問題等の地球的課題や国際犯罪等への対処、③知的財産権、医療過誤、労働関係等の専門的知見を要する法的紛争の増加、④弁護士人口の地域的偏在の是正の必要性、⑤「国民の社会生活上の医師」としての法曹の役割の増大などを例示している。しかし、2008年3月に当連合会の弁護士業務総合推進センター内の法的ニーズ、・法曹人口調査検討プロジェクトチームは、「訴訟事件数の推移や大企業・中小企業・市民などを対象にした各種調査結果からは、弁護士に対する法的需要がこれから5年間程度で飛躍的に増大していくことを見込むことは困難である」「訴訟事件数については、地裁事件だけでなく簡裁事件や家裁事件まで含めると、今のところ、全体としての事件数の増加率は、弁護士数の増加率を上回っているが、一時的現象である消費者金融に対する過払い事件の影響も大きく、通常事件の増加は緩慢である」と記載し、司法制度改革審議会が主張していたような法的需要が低下していることを認めている。
 すなわち、本件提言案は、法曹人口5万人が相当であるとの理由付けとして、司法改革審議会の意見書を用いるが、本件提言案内に司法改革審議会の意見書に記載された理由の欠如に言及しているに等しく、内容が矛盾するのである。 
(2) 市民(の需要)によって法曹人口が決定されるべきであることについて
   法曹人口を利用者たる市民が決定すべきとのことであるが、平成12年度に実施された司法制度改革審議会が行ったアンケートの結果(別紙10)によっても弁護士のアクセス状況として「弁護士を探すのに」「多いに苦労した」と回答したのが3.8%、「やや苦労した」と回答したのが6.1%に過ぎず、弁護士が足りなくて困っているとのアンケート結果はでなかった。
また、年間事件数は、平成15年をピークに事件数は減少の一途を辿っている(別紙7)。また、弁護士選任率も少年事件を除いて、ほぼ全ての案件で減少している(別紙3-②、11)。ちなみに、本件提言案の第4項「法的需要と司法アクセス」第2「法的需要」には、「全体として事件数の増加率は、弁護士数の増加率を上回っている」と記載しているが、統計上、事件数は減少し続けており、事件数の増加率が弁護士数の増加率を上回るなどということはありえないように思われる。本件提言案の「全体として事件数の増加率は、弁護士数の増加率を上回っている」との記載については、如何なる統計に基づき、如何なる計算によって導かれるのか明示すべきである。
1990年と2006年の弁護士選任率を比較すると(別紙11)、少年事件における弁護士付添人選任率が0.9%から6.7%に増加しているが、その他民事調停事件の代理人選任率、民事通常事件の弁護士選任率及び遺産分割調停事件の弁護士選任率も減少している。
更に、市民5万人を対象にした日弁連が実施したアンケート(別紙12)によれば、弁護士に相談することを考えた市民のうち5割に相当する市民が実際に弁護士に依頼をしており、その紛争の対象となる金額のアンケート結果を見ると、紛争対象金30万円を下回る案件についても既に市民が弁護士に相当数依頼していることが明らかとなっている。
結局、市民の需要を考慮しても、現在の2万7000人の倍に相当する弁護士数が必要との理由は存在しない。
(3) 人口推移等今後の社会のあり方
わが国の人口は、如何なる人口統計予想でも、減少することが見込まれており、その構成要素も少子高齢化が益々加速する。そして、15歳から64歳を構成する所謂「生産年齢」の占める割合の人口は激減する。国立社会保障・人口問題研究所が平成18年12月に発表した「日本の将来推計人口」(別紙13)によれば、出生率1.06の低位仮定で予想した平成67年の将来推計人口は、8411万人で平成17年の人口1億2777万人と比較して34%減であるが、平成17年の生産年齢が8442万人であるのに対して、平成67年の生産年齢は、低位仮定で4213万人に半減するのである。それに伴い、当然のことながら、わが国の経済活動も縮小せざるを得ない。また、厚生労働省の発表する人口統計予想の推移は、毎年減少の方向で修正されているのであり、低位予想に従っても楽観的な数字であることが強く推認される。
高齢者特有の事件も存在しうるが、経済活動の縮小に伴い全体的に見て法的需要は減っていくことが合理的に推察されうるのである。
(4) 潜在的な法的需要の問題
   本件提言案には、第4項「法的需要と司法アクセス」4「小括」には「潜在的な法的需要の司法へのアクセスを確保する制度的基盤が未だ整備されていないことから法的需要が顕在化せず」と記載されている。
   しかし、「潜在的法的需要」があたかも存在するかのごとき前提の記載は、不合理である。「制度的基盤」とのことであるが、司法改革が決定されてから、約9年が経過するが、いかなる観点から統計を取っても、調査検討しても、また、日弁連がいかに業務拡大に努力しても「潜在的法的需要」が存在するとの事象・現象はどこにも認められない。司法改革から9年経っても、潜在的法的需要の萌芽さえどこにも認められないと言うことは、潜在的法的需要自体が存在しないと結論づけるのが合理的である。
   にもかかわらず、あたかもどこかに「潜在的法的需要」が存在するかの如き前提で論ずるのは非論理的である。
(5) 制度的基盤整備の問題
   本件提言案においても司法予算の問題、裁判官や検事の増加の問題等々、法曹人口5万人を裏付ける制度的基盤整備が欠落していることが記載されているのであり、制度的基盤整備なしに法曹人口、特に弁護士人口のみを増やしてもいびつな構造が是正されるわけでもなく、社会的弊害を防げるわけでもない。
(6) 新人弁護士の就職難や登録しない修習生の増加の問題
   二回試験に合格しても、就職先がなく、即独せざるを得ない新人弁護士や登録自体を断念せざるを得ない有資格者が劇的に増大している。
   年間の司法試験合格者数が2000人を超えたのは、2007年度と2年前に過ぎず、修習期間を考えると2000人を超える司法試験合格者が世に輩出されたのは、2008年の1年前に過ぎない。
   にもかかわらず、十分なオンザジョブトレーニングを受けられない弁護士がこれほど多く輩出されている以上、年間2100人-2200人を前提とした本件提言案を容認することは到底できない。
   この点、企業内弁護士に就職する弁護士の数が増えることにより問題解消を望む声もあるが、今後益々弁護士間の経済的・社会的較差は広がり、弁護士としての同質性を保つことは事実上不可能となってきている。
   弁護士の同質性や団結等を前提とした弁護士の生命線である弁護士自治は危機に瀕していると言わざるを得ない。社内弁護士として就職先が確保されたとしても、弁護士自治の危機に対する問題が解消されるわけではない。
   以上からして、我々は、弁護士自治の観点からしても、法曹人口5万人、司法試験合格者数2100人~2200人を前提とした本件提言案に賛成することはできない。
(7) 最後に
   2000年の日弁連臨時総会決議及び2001年の司法改革審議会意見書が公表されて以降、様々なアンケートや現象面を冷静に見た場合、法曹人口5万人の需要があるとは到底考えられないのであって、現状の2000人を少し上回る合格者数が輩出される前から既に社会的弊害が出現してきている以上、法曹人口5万人を前提とした2100人から2200人を前提とする本件提言案に対しては、断固反対の意見を述べる。
                                            以上
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