2011.01.21 震災障害者
震災障害者の問題について取り組んでいます。

1月8日に関西学院大学の研究発表で報告したものをアップしておきます。
震災障がい者法制度研究会 中間報告

                     2011/1/8 津久井進
                     (注;一部私見も含む)



1 経過
[報道]
1995年12月6日~20日 神戸新聞 連載「独りやない 震災障害者たちのきょう・あした」
1997年4月19日~23日 毎日新聞 特集「そして今 後遺症とともに」
2004年8月1日~8日 神戸新聞 連載「生き直す 震災障害者の10年」
→「震災で障害を受けた人は何人いるのか。兵庫県や神戸市など関係機関を取材したが、全体像は把握できなかった。さらに担当者に言われた。
  「障害の原因が何であろうと、公的な支援策は同じです」
 震災でけがを負うと同時に家を失い、家族を失い、住み慣れた地域を失った人がいる。孤独感を抱えたままの人がいる。担当者の言葉は、私たちの心のどこかで引っ掛かったままだ。」
2009年1月13日~18日 毎日新聞 特集「きょうを生きる 震災障害者の14年」

[活動・動き]
2006年1月21日 震災で障害・後遺症を負った方と家族を支援する会
2007年3月 よろず相談室で、震災障害者と家族の集いを始める
2010年3月29日 参議院災害対策特別委「震災障害者への支援充実等に関する件」
2010年度内 兵庫県、神戸市において実態調査を開始
2010年12月20日 よろず相談室のNPO法人認証
2010年12月28日 兵庫県・神戸市の調査の中間報告

[研究会]
2010年1月11日 災害復興基本法 第1次試案公表
2010年5月21日 第1回 震災障害者法制度研究会(~第5回まで)
2010年10月17日 日本災害復興学会 公開シンポジウム

2 震災障がい者が、なぜ問題なのか、何が問題なのか
(1) 存在そのものを忘れていた それはなぜか
    (人々が)目を向けない、(当事者が)語れない、(社会の)仕組みがない
(2) 実態が把握されていなかった どうしてそうなったか
    行政、社会、専門家、研究者、当事者、制度
(3) 比較することの意義と、比較することの問題
    死者(遺族)との比較 障害者との比較 他の被害者との比較
(4) ひとりぼっちだった 置き去りにされた 取り残された
    窓口がない、集う場がない(自主的組織)、自立支援がない、連帯を阻む
(5) 欠けているモノは何か
    家族を支える、医療・保険・災害支援の連携、アフターケア、社会連帯意識

3 障がい者に対する社会制度、集団的被害者への対応
(1) 一般的な社会保障制度
 社会保険(国民年金、厚生年金)、生活保護(医療扶助等)、ほか
(2) 賠償責任者がいないもの
 災害障害見舞金、労災保険制度、戦傷病者特別援護、ほか
→災害弔慰金の支給等に関する法律は、同法8条において、災害障害見舞金(主計維持者250万円、他は125万円)を支給することとしている。
障害者=①両眼が失明したもの、②咀嚼及び言語の機能を廃したもの、③神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの、④胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの、⑤両上肢をひじ関節以上で失つたもの、⑥両上肢の用を全廃したもの、⑦両下肢をひざ関節以上で失つたもの、⑧両下肢の用を全廃したもの、⑨精神又は身体の障害が重複する場合における当該重複する障害の程度が前各号と同程度以上と認められるもの(→支給対象は極めて限定的で、震災時の受給者は64名のみ)
(3) 賠償責任者があるもの
 交通事故の損害賠償請求、犯罪被害者の補償制度、薬害補償制度、ほか
(4) 集団的な被害者がある場合の対応
 ・(財)ひかり協会(森永ヒ素ミルク事件の被害者)
 ・(独)医薬品医療機器総合機構(スモン被害者、HIV被害者、C型肝炎被害者)
 ・(独)環境再生保全機構(公害健康被害補償業務)
 ・サリン被害者(労災アフターケア、NPOによる健康診断)、JR脱線事故負傷者
(5) これらから、学ぶべきもの、抜け落ちているもの、発展させるべきものを考える

4 取り組むべき視点
(1) まず震災障がい者が存在すること、なぜ特に救済すべきかを明確にする
(2) 災害直後の対応(医療、窓口、相談、情報管理)
(3) 復興過程における支援(保健福祉、家族支援、連帯支援)
(4) 今後に向けた経験の社会化(自立、研究、教訓、情報発信、制度改善)

5 災害復興基本法(案)の理念を活かす
[前文]自然災害によって、かけがえのないものを失った(=心身の被害)とき、我々の復興への道のりが始まる。我々は、成熟した現代社会が災害の前では極めて脆弱である(=障がい者制度に谷間がある)ことを強く認識し、コミュニティと福祉(=福祉制度の改善)、情報(=窓口機能の創設)の充実を図りながら、被災地に生きる人々と地域が再び息づき(=震災障がい者の人間復興)、日本国憲法が保障する基本的人権(=震災障がい者の基本的人権)が尊重される協働の社会を新たにかたち創るため、復興の理念を明らかにするとともに、必要な諸制度を整備するため、この法律を制定する。
[第1条 復興の目的]復興の目的は、自然災害によって失ったものを再生するにとどまらず、人間の尊厳と生存基盤を確保し(=健康回復だけでなく、震災障がい者の尊厳と生きていくのに必要なフォロー)、被災地の社会機能を再生、活性化させるところにある。
[第2条 復興の対象]復興の対象は、公共の構造物等に限定されるものではなく、被災した人間はもとより、生活、文化、社会経済システム等、被災地域で喪失・損傷した有形無形の全てのものに及ぶ。(=人間の受けた損傷は、外傷と内面の両方に及ぶ)
[第3条 復興の主体]復興の主体は、被災者であり(=震災障がい者本位の制度)、被災者の自立(=震災障がい者の自立の支援)とその基本的人権を保障(=あらゆる自由と生存権)するため、国及び地方公共団体はこれを支援し必要な施策を行う責務(=調査、アクセス、給付、フォローその他の支援)がある。
[第4条 被災者の決定権]被災者は、自らの尊厳(=最も重要なのは人間としての尊厳)と生活の再生によって自律的人格の回復を図る(=これが最大の目的)ところに復興の基本があり、復興のあり方を自ら決定する権利(=震災障がい者は主体であって、保護の客体ではない)を有する。
[第6条 ボランティア等の自律性]復興におけるボランティア及び民間団体による被災者支援活動は尊重されなければならない(=震災障がい者の自主的な連携の取り組み、連帯支援活動の尊重)。行政は、ボランティア等の自律性を損なうことなくその活動に対する支援(=広報的支援など)に努めなければならない。
[第9条 医療、福祉等の充実]医療及び福祉に関する施策は、その継続性を確保(=平時の障がい者福祉制度の活用)しつつ、災害時の施策制定及び適用等には被災状況に応じた特段の配慮(=災害障がい者に対する特段の配慮)をしなければならない。
[第12条 復興の情報]復興には、被災者及び被災地の自律的な意思決定の基礎となる情報が迅速かつ適切に提供されなければならない(=震災障がい者への情報提供)。
[第14条 施策の一体性、連続性、多様性]復興は、我が国の防災施策、減災施策、災害直後の応急措置、復旧措置と一体となって図られるべきであり、平時の社会・経済の再生・活性化の施策との連続性を考慮しなければならない(=平時における障がい年金制度、諸救済制度等との連続性)。復興の具体的施策は目的・対象に応じて、速やかに行うべきもの(=情報発信、窓口創設、一次的給付等)と段階的に行うべきもの(=支援、年金等)を混同することなく多様性が確保されなければならない。

6 今後の課題と提言の方向性
(1) 地域防災計画に震災障がい者を位置付ける
 第1にまずできるところから始められること、第2に具体的な実践と直結していること、第3に社会と地域の実情に応じた定期的で細やかな見直しが見込めること、などから各地の地域防災計画に震災障がい者(定義は「災害障がい者」が相当)への対応を明記する。
[内容]
①震災障がい者が存在し、特別の支援が必要であることを明記しておく
②被災者支援システム(被災者台帳など)を構築し、活用する(被災者台帳は、世帯単位として、家族支援も視野に入れておく)
③医療現場における負傷者情報を把握し(診断書の原因欄の改善)、次の福祉支援につなげる(医療現場における負傷状況を把握し、これを被災者台帳に記録し、治療推移をフォローし、必要に応じて支援員による生活支援をする)
④負傷者に対する情報提供窓口を設置し、専任担当者を置いて、支援につなげる
⑤家族、民間による支援活動、自主的な連帯活動に対し、それぞれ支援をする
⑥災害時要援護者対策を応用する

(2) 災害弔慰金法を改正する
 災害弔慰金法は、災害障害見舞金(同法8条)を支給することとしているが、支給対象が限定的であり、同制度の目的(障害者の精神的な打撃に対する見舞であり生活環境改善の一助とする)が果たされていない。そこで、障害見舞金の受給対象者を拡げる(なお、支給額の増額について当事者ニーズは高くないので見送る。)。受給者を把握することにより震災障害者の存在や障害程度を公的に把握できる。
[内容]
①労災・自賠責の後遺障害等級の14級と同レベルまでを見舞金対象者とする(これにより,外傷性障害と精神障害の両方が対象となる)
②金額は自賠責保険の慰謝料額の10分の1程度を目安とする(110万円~3万円)
③但し、後遺障害の認定への異議申立ての手続の困難性を考慮し、認定基準は単純化する

(3) 被災者総合支援法を創設し、復興期間中の短期的な年金・手当を支給する
 障がい者への生活支援は、国民年金・厚生年金等の障がい者福祉に関する一般的制度を基本とすべきである。しかし、震災障がい者には、被災による生活上の特別のハンディがあり、震災復興の歩みにおいてその格差は経時的に拡がる傾向がある。そこで、復興に要する期間に限った上乗せ的な支援を行う。支援内容、治療中は特別手当金、症状固定後は時限的な年金、学業支援、就労支援である。なお、これら仕組みは,新たな制度の創設となるので、現在検討中の「被災者総合支援法」の一内容とする。
[内容]
①自然災害の規模・内容に見合った復興に要する一応の期間を設定し、その間における負傷者等に対する上乗せ的な給付金を支給する。治癒などによる治療終了や症状固定までの間(あるいは、国民年金等の障害認定時期である1年半)は負傷者に対する特別手当金を支給し、障がい者に対しては復興期間終期まで時限的な年金を支給する。
②対象者に対しては、自立支援を促進するため、就労支援、学業支援を行う
③精神的な支援のため、心のケアをサポートする機関や仕組みを置く

(4) 社会連帯意識を高めて、財源を確保する
 これら施策は、災害復興基本法案の理念の具体化であり、この理念の共有を図る。
 障がい者支援は、社会連帯意識が基礎にある。被災者への支援も同様である。この二重のハンディを負う立場の人々に対する理解が、財源形成を正当化する。比較論に由来する弊害を避け、目的の相違から、一般的な障がい者福祉とは財源を別にすべきである。
 具体的財源として、予算化,特別税,国民皆保険の実現、災害復興基金の創設、国庫予備費の一部の経常費組入れ、義援金等の私的給源の組入れなどが考えられるが、いずれも社会連帯意識が基礎となる。
 震災障がい者問題は、私たちの社会連帯意識を覚醒させる契機となっている。   以上
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