『原子力基本法』は,わが国の原子力政策の憲法です。

 そういう大事な法律が,こそこそと秘密裏に改定される動きを知りました。



『原子力基本法』は,戦後間もないころに作られました。
 原爆の惨禍が生々しいころでしたから,原子力を軍事利用しないようにという気持ちを込めて,「民主」「自主」「公開」の3​原則を基本方針にしました。

 ところが,6月15日(金)に衆議院に上程された法案(「原子​力規制委員会設置法案」)では,この基本方針に,
     『我が国の安全保障』
という文言を加えることになりました。

 驚いたのは,三党合意ができていたため,それがほとんど議論さ​れないまま可決され,即日通過してしまったことです。


 この改正でどうなるのか?
 原子力利用の目的に,軍事利用も含まれることになるわけで,原子力基本法がくるっと後ろ向いた,180°方向転換ということに​なるわけです。

 このことで何が問題か?
私の原子力政策に関する主義主張とは関係なく,法律家として,3つの点で大きな問題があると思います。

 第1に,「こんな大事なことを,ちゃんと議論もせずに,ドサクサまぎれに,こそっとやったらあかんやろ」(=国民的議論の欠如​)ということです。

 第2に,「細かな法律の“附則”なんぞで,「基本法」のような大事な法律の魂の部分をひっくり返すようなことしたらあかんやろ​」(=法秩序の破壊)ということです。

 第3に,「被災地も日本全体もたいへんなときに,軍事利用だとかを考えてる場合じゃないやろ」(=社会状況の無視)ということです。


 もし,このような法改正が実現すれば,「安全保障」の名の下に​,ますます「非公開」がまかりとおることになります。

 だいたい,こうした改正は,アメリカの外圧が背景にあるはずで​,なんとも情けないです。

 何より,国会と言う場で議論をせずに,非公開の自・公・民の三党合意で何でもかんでも法律を通してしまうやり方は,民主主義を馬鹿にしています。
 
 先週逝去した日隅一雄さん(ヤメ蚊弁護士)は,
   「主権者」は誰か--原発事故から考える(岩波ブックレット)
の中で,
 

「私たちが主権者として振る舞うために,「思慮深さ」を身につけたうえ,積極的に政治に参加していかなければ,この国は変わらず,また取り返しのつかない「何か」が必ず起こるだろう。」


と予言されていたが,早速,こんな事態が起きて,日隅さんも怒っていることでしょう。



 なお,もう少し詳しく説明しますと,仕組みは以下のとおりです​。

(1) 『原子力規制委員会設置法案』は,以下のとおりです(衆​議院のHPです。)
    ↓
http://www.shugiin.go.jp/​itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/​houan/g18001019.htm

(2)  『原子力規制委員会設置法案』の附則12条には,次の​とおりの条項があります。
 (原子力基本法の一部改正)
第12条 原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)の一部を​次のように改正する。
(中略)
  第二条中「原子力の研究、開発及び利用」を「原子力利用」に​改め、同条に次の一項を加える。
 2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏​まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国​の安全保障に資することを目的として、行うものとする。

(3) この改正で,次のようになります。

■原子力基本法 (現行)
第2条  原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、安全の確保​を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、​その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。
     ↓
(改定案)
第2条  原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主​的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し​、進んで国際協力に資するものとする。
 2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏​まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国​の安全保障に資することを目的として、行うものとする。

■ついでに,『核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律』の第1条も,次のように改定することになりますが,文言だ​け見ても,かなり,アブナイ領域に足を踏み込んでいるような気が​します。
(現行)
第1条  この法律は、原子力基本法 (昭和三十年法律第百八十六号)の精神にのつとり、核原料物質、​核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ、かつ、これら​の利用が計画的に行われることを確保するとともに、これらによる​災害を防止し、及び核燃料物質を防護して、公共の安全を図るため​に、製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置​及び運転等に関する必要な規制を行うほか、原子力の研究、開発及​び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために、国際規制物資の使用等に関する必要な規制を行うことを目的とする。
     ↓
(改定案)
第1条  この法律は、原子力基本法 (昭和三十年法律第百八十六号)の精神にのつとり、核原料物質、​核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られることを確保するとともに、これらによる災害を防止し、及び核燃料物質を防護し​て、公共の安全を図るために、製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄​の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関し、大規模な自然災害及​びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行うほか、原子力の研究、開発及び利用に関する条約その他の国際約束​を実施するために、国際規制物資の使用等に関する必要な規制を行い、もつて国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする。



これから参議院で審理が始まります。衆議院ではうっかり見過ごし​てしまいました。
こんどは要注目です。
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